33 箭内道彦(クリエイティブディレクター)

箭内道彦(クリエイティブディレクター)

街をふるさとに変える仕組みをつくりたい。

串とろ

串とろ
箭内氏がよく訪れる、東京ミッドタウン近くにあるラーメン店。青森出身のマスターがつくる八戸ラーメンや、あっさりしたしじみラーメンが名物。

 たとえば、自分の出身都道府県の形をした、小さなバッヂを配るっていうアイデアはどうですか? 出身を隠したい人もいるだろうけど、形だけなら他県の人にはわからないじゃないですか。もちろん外国人用のバッヂは国の形。南アフリカの形のバッヂをつけている人を見かけたら、「俺も俺も! 懐かしいなあ。で、串とろのしじみラーメンはもう食べた?」とか「南アフリカ料理の店がここにあるんだよ」なんて、同郷人同士で話ができる。福島だったら、そうですね。「俺、会津若松市」「俺、郡山市」「『八重の桜』、見てる?」とか、そういう会話になるでしょうね。

 ふるさとを捨てて整形もして東京で生きているとか、夜逃げをして連れ戻されたら大変なことになるって人はもちろんつけなくてOK(笑)。バッヂには、その県や国出身の人はもちろん、その場所に興味がある人も気づきます。バーで隣の席の人から話しかけられたり、ラーメン屋の店主とお客さんがコミュニケーションをとれたり。自然と、六本木がみんなのふるさとになるような仕組みやデザインがあったらいい。

ほぼ日

ほぼ日
糸井重里氏が主宰するウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」。本文中にも登場する、箭内氏が手がけた「オレココTシャツ」は、かなりの高評価を受けたとか。

 フランスワールドカップのときに、「ほぼ日」でTシャツのデザインを競い合う「T1グランプリ」という企画をやったことがあるんです。そのとき僕がつくったのが、真っ白いTシャツの全面に、紫のラインで世界地図がぐるっと一周しているデザイン。ワールドカップ会場に行っていろんな国の人がいるところで、「俺、ここの国から来たんだよ」って指してもらう、通称「オレココTシャツ」。指をさしたのが、ちょうどおへその横だったり、脇の下のくすぐったいところだったりして、そこから会話が始まる。それにちょっと似ているんですけど。

世界平和は「六本木外交」からはじまる。

THE HUMAN BEATS

THE HUMAN BEATS
キヨサク(MONGOL800)、Mummy-D(RHYMESTER)、箭内道彦、亀田誠治の4人によるプロジェクト。1stシングル「Two Shot」は、東日本大震災の復興支援チャリティソング。
http://two-shot.jp/

「六本木と世界平和」なんていうテーマを思いついたのは、やっぱり東日本大震災があったからかもしれません。とくにあの原発事故以降、お前は賛成か反対かという話ばかりで、みんな対立しすぎていると感じます。もちろん自分の考えをちゃんと表明するのは尊いことですけど、考え方の違う人を攻撃するだけで、そのあとどうしたらいいかわからないっていうのが、今の状態。賛成派も反対派も、どちらも大切なものを守ろうと必死に生きている中で、対立が生まれてしまうのって本当は悲しいですよね。

 僕がメンバーのひとりであるTHE HUMAN BEATSというユニットに、「Two Shot」という曲があります。これは違う考えの人とどう生きていくのかを歌いたかった曲。その中に「君と僕の違うところを尊敬しあいたい 僕と君の同じところを大切にしていたい」っていう歌詞があります。これこそ、世界平和にもっとも必要なことなんじゃないかなって思うんです。音楽の力でもいいし、デザインやアートの力でもいいし、笑顔で注意するのでもいい。何でもいいから、まず日本国内が思いやりを持って対話ができる状態になってほしいし、それが今、必要だと思って。

 六本木には、東京ミッドタウンも六本木ヒルズもあるし、美術館も多くある。年齢も性別も国籍も様々な、いわば愛すべき「アンバサダーおのぼりさん」が集まっているわけで、人材という意味においては日本でも有数の場所。交流したり平和を掲げたりするのには、うってつけのキャストが揃っていますよね。バッヂをきっかけに、まさに六本木から対話がはじまっていく「六本木外交」(笑)。たとえば、タンザニアの人と知り合ったら、現地で山火事があったというニュースを見たときに、あの人の友だちは無事かなって、他人事じゃなく思えるでしょう。

 交番の横かなんかに、でっかい白い世界地図があって、そこからバッヂをはがせたりするといいですね。サッカーのユニフォームみたいに交換してもいい。六本木に住んでいる人はゴールド、それ以外はシルバーにしましょうか。10年住んでいるともらえる、ゴールド免許みたいに。